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「パドキアに帰る」
そう予定していたオレだけど、未だにヨークシンにいる。
まあひとつ間の抜けた事件があったのも理由のひとつだ。最初の頃はそれなりにエドがばらすんじゃないかと、疑心になっていたわけだし。
まあそれは杞憂で、実際エドは誰にも話した様子はなく、あの事件は普通に過去の事になりつつある。
では何故いるのか?
それは神字の方の研究室に入れるから。
本来、連休の間は閉鎖予定だったのだが、エドの計らいによりクラーク教授が学園に出勤する日は開放される事になった。
エドの計らいというが、おそらくエドが無理やりオレとの接点を持とうとした結果な気がする。だが、自分としては喜ばしい事なので、有難く利用する事にしていた。
「ラクルの目的が本当にコレだったんだなぁ。って痛感するよ」
一心不乱に書籍を読み、ノートにまとめて行くオレを見て、エドは溜息を漏らす。
彼も座って本を読んでいたのだが、あまり集中できていなかったようだ。休憩ついでに、オレに話しかけてきた。
「エドにとっては考古学がメインかもしれないけど、オレにとってはこっちがメインだからね」
過去に述べたエドの台詞を流用して、答える。
オレにとってはこの神字を学ぶのが、今此処にいるすべてだ。考古学も学園生活もそれらの勉強もすべてが通過点でしかない。
「この文字のどこに魅力があるのか、分からないよ」
「エドには分からないかもな」
「“オレだけが知っている”ってこと? そりゃ人の趣味はそれぞれ違うけどさ」
「そうじゃない」
オレはエドを見る。
であった頃と変わらない垂れ流しのオーラ。少しも磨かれていないから、何の訓練もしていない事がわかる。
教授はエドに念の存在をまったく教えないまま、この神字を教え続けるのだろうか?
そんな意味のないことを?
神字は念の補助をもつ文様だ。
念の存在を知らない人間には、幾何学的な文字にしか見えない。その価値など分からず、エドの台詞は無理なからぬこと。
能力者以外の人間が書いても多少の効果はでるかもしれないが、書いた本人が結果を見ることができなければ、やはり真意を感じ取る事はできない。
「この文字には、使用者に前提条件があるんだよ。オレもクラーク教授もその条件を満たしているけど、エドにはまだそれがない。だから分からないんだ」
「条件ってなに?」
「オレからは言えないよ。教授が教えていない事をオレが言うわけにはいかないじゃないか」
「ラクルは秘密が多すぎる!」
「間違ってはいないね」
会話をうちきり、自分の作業に戻る。
1日でも早く終われば、その分早く元の生活に戻れる。家族に、ゴトーにいつまでも迷惑をかけているわけにもいかないのだ。
この特別ルームに入れるようになって、本を読みあさり、神字をまとめ始めて大分たつ。
教授は言葉どおり質問には丁寧に答えてくれ、更に資料にこと欠かない状態で、順調に理解は進んでいった。
簡単なことから難解な事まで、幅広くできるのがこの神字というもの。
シングルアクション。例えばオーラを感じたら黒くなる。などの簡単な動作を付けるものなら、簡単に出来る。
難しいものならば、多行程の動作を行わせることができる。
時間とオーラを念入りにこめれば、バックアップ要素は強くなるし、時間も長くなる。
過去事例、実物事例、仕様用途。それらもたくさん読んだ。
簡単な字をかいて、実際作動させてみたりもした。
だがそろそろそれだけでは、物足りなくなってきたのも事実。
この休みを使って何か作ろう。
その日の帰り道、電気部品や、工具部品や、板、プラスチックなど大量に買い込んで帰った。
うん、楽しみだ。
◇
条件が達成された時、オレのしかけた罠が発動する。
そういうモノにしよう。
神字への理解を試すための創作物の指向性をそう定める。
簡単な例で言うと、“玄関の扉が閉まった瞬間に電気がつく”こんなようなもの。
オレの能力でスイッチを押さなくても電気をつけることはできる。だがそれは瞬間的に発動してしまう。だから神字によって発動のための条件づけをするのだ。
発動キーとなるものをどれだけ都合のよいものに仕立て上げられるかは、勉強次第だと思う。
そのあたりは試行錯誤で、実施あるのみだと思う。
そしてゆくゆくの目標とするところは!
うまく思うものが出来た先を想像し、オレはニヤリと笑みを浮かべる。
そろそろシャルには一度痛い目を見てもらいたいのだ。
そう目標とするべきは、シャルへのおしおき目的なセキュリティ品!
発動キーを、セキュリティ解除に失敗とかそのあたりに出来れば、あいつは間違いなく発動させるだろう。
後は自分の念をつかって、「ある電気機器を破壊」させればいいのだ。目標とする電気機器はいわずと知れた彼の携帯。
ふくくく
思わず笑いがこぼれやる気が起きる。
というのも、自分の仮宿がバレ、部屋の中にパソコンが乱立しているのを知ったあの時以後、幾度もなくシャルは忍び込みをもくろみ、ていよく入ることが出来たら、パソコンにかけたパスワードもハッキングにより解除し中身を物色しようとするのだ。
部屋にも、各パソコンすべてにさまざまなセキュリティを設けてはいるものの、彼はまるでパズルゲームを楽しむかのように、ハッキングして遊んでいる。
見られたくないものが多数ゆえに、本当にいい迷惑だ。
シャルの実力はなみなみならず、どれだけ障害を設けようと赤裸々にされる可能性は捨てきれず、少しの気も緩めない。
だからといって、パソコンが無ければ生きていけないって状態のオレでは、餌を見えるところにおいておくしか、ないのである。
ほんとに、シャルに家を知られるって厄介だ。
クロロみたいにおとなしくしていればいいのに。
ぶつぶつといいながらも、確実にやる気はましているから、ある意味シャルのおかげといえなくも無い……。
26
目的も出来て、更に神字を追求するのが楽しくなっていた、研究室での午後。
クラーク教授から通達が下った。
「アイジエン大陸まで行ってきなさい」
と。
飛行船に揺られたどり着いた先は熱帯地区で、息苦しく感じるほどの湿度にオレは顔をゆがめる。
周りは熱帯雨林にかこまれた、辺境の空港。
飛行船が去った後は、本当に人気も何もなく、ぽつんと取り残された感があって、意気も消沈する。もともと乗り気ではなかったのが余計に後押ししてくれる。
空港ではあるが、ヨークシンやパドキアと比べると、空港と呼べないぐらいの柵で囲まれた中にプレハブがひとつあるだけのしょぼい施設。
降りたのはオレだけで、テクテクと歩いてプレハブの中に入ると、係員のような人が1人いて、チケットをうけとり「ようこそ」と歓迎してくれた。
だがそれも本当に義務的な一言だけで、それがすんだら奥に引っ込み姿を消した。
小さいプレハブの中には何もなく、オレは唯一申し訳なく設置された古ぼけたベンチに座り迎えが来るのをまった。
はぁ。
もう少し、神字の模様の図案をつめたかったんだけどな。
シャルにちょっとした仕返しと嫌がらせをかねた道具を作り始め、意気揚々と神字の模様を考えていた時間が懐かしい。
そう思い馳せても、この場所ではどうしようもない。
持ってきたノートだけで、復習するぐらいで、新しい事を調べる事は不可能だ。
だけど、此処まで来たら意識を切り替えるべきだろう。
此処には考古学の研究生としてやってきたのだから。
少し前向きな気持ちになって、ベンチをたち、プレハブの中に足を踏み入れる人物に軽く会釈をする。
「お久しぶりです。カイトさん」
「遅くなってすまない。久しぶりだな。ラクル」
以前ヨークシンにて会ったカイトは、前と何もかわらない仕草でオレに手を差し伸べた。
前は断った握手だが、今回は少し躊躇して、まあいっかと握り返してみる。
カイトはちょっと驚いた顔と、嬉しそうな顔をした気がするが、そんなにおかしな事なのだろうか?
もしかしてオレって、野生動物がなついて嬉しいという感覚と、同列の扱いをうけたのだろうか……。
◇
ジープは、道というより獣道と疑いたくなる通路を、ガタンガタンと揺れながら進んでいく。
慣れないオレは、はねるたびにどこかをうって痛い思いをするのだが、カイトはなれた様子で一向に気にする気配はない。
むしろオレが時々おこす、接触による打撲音に苦笑を浮かべている。
「今回はご迷惑をおかけします」
オレは少々のいたたまれなさを感じながらも、舌をかまないように話しかける。
迎えもだが、こちらに居る間迷惑をかけることになるのだ。
「いや、なんていうか、悪いのはこっちなんだよな……」
片手でハンドルを握りながら、声色小さくつぶやく。
そして、反対の手でキャスケットごと頭をくしゃりとするカイト。長髪がパサリと揺れる。
「ラクルはなんていわれてこっちに?」
前の台詞をなかったことにするかのように、彼は質問をかぶせた。
その様子にオレは、知らないところで何かあったのか? と疑問が浮かぶ。
だが、とりあえずカイトの問いに答えることにした。
「教授から、“君は研究室に篭りすぎだから、少しは外で何かをした方がいい。そうじゃな、ひとつ用事を頼まれてくれないか?”との前置きの後、こちらに来るようにと頼まれました」
別にオレがこもっていても迷惑をかけていないのに。と思ったのだが、下手に断って「研究室を開放しているのが悪いんじゃな」と言われ、閉鎖にでも至ったら元も子もない。
むしろ言い出しそうな雰囲気を感じたから、大人しく1週間は我慢してこちらに来ようと思ったのだ。
そして、帰ってからまた研究室に篭ればいい。
そう思ってこちらに来たのだが、何か違ったのだろうか?
「そうか」
「何かあったのなら、オレも知りたいのですが……」
つめよれば、カイトはとたんに苦虫を噛み潰したような顔をした。
どうもあまりよくない事らしい。
「いやまあ今回の件、もしかしたらオレのせいかもしれないんだよな」
「どういうことですか?」
なぜカイトのせいになるのかわからなかった。
カイトは、オレの意思を無視して呼びつけるタイプには思えない。でもオレの出したレポートが間違っていたという話も聞かない。
教授の出した指令のニュアンスでは、研究室から追い出す名目、加えて論文かの手伝いの話が回ってきても対応が聞きやすいように、現地の雰囲気を味わってきなさい。それくらいのものだった。
特に大きな何かをして来いという感じではなかったのだが、何があったのだろう?
「オレの師匠に君の事を話したんだ」
「はぁ、どのようにでしょう?」
「教授の下に新しい弟子が居たと。念能力者で、神字も覚えているらしい。このレポートもその彼が作った。とね。そう話をしたら、“一度そいつの顔が見てみたい”と言い出した訳だ。
とりあえず教授経由で、長期連休中に良かったら遊びに来てくれると助かる。と伝言は頼んだわけだが、その後に乗り気じゃないと連絡をもらってな」
オレは連休が始まる前に言われた台詞。そしてその後の教授とのやり取りなどを思い出していた。
確かに一致する。
「そしたら師匠が今度は教授に時下に電話し始めたから、もしかしてと思っていたんだが。その後訪問の連絡があったからなぁ」
「質問ですが、そもそも何故、カイトさんの師匠がオレに会いたがるんですか?その理由がよく分からないんですけど」
「…………。
率直に答えるとだ。
“古文が解読できる能力者だと? 護衛がいらないってことだな。しかも神字を覚えている最中? 便利な存在じゃないか。何でつれてこなかった? 現場でこきつかえる貴重な人材は確保しておくべきだ”
ということだ……。師匠は使えるものは使う主義だからな。
オレ自身も今回カキン国で仕事している最中に呼び出されたくらいだ。
更に言うと、師匠の性格からいって、何とか言い含めてこちらに向かわせるようにクラーク教授に命令した可能性もある」
「……オレ帰っていいですか?」
「気持ちはわかるが此処まで来たら諦めてくれ」
こんな辺境の地では、1日に1本の飛行船も来ないのはわかっている。
だけどUターンして、帰ろうかとこの時本気で思ったのだった。
27
車はやがて止まり、プレハブというよりは、ほったて小屋。屋根あって雨宿りができるという機能ぐらいしか備えてない建物の前に止まった。
外に水場らしきもの、炭火の燃えカスなどがあり、生活の跡が見て取れる。
きっともしかしなくてもここがベースキャンプなんだろうなぁ。
その思惑はあたり、ほったて小屋の中にはベッドらしきものが並んでいる。
小屋の中も思った以上に質素というか、みすぼらしいというか。
「あの、カイトさん。オレ遺跡発掘とか、よく分からないんですが。こんなものなんですか? ベッドの数も少ないように見えますが……」
「本来の遺跡調査はもっと大人数でやるんだけど。今回は仕方なくてなー。何しろこのあたりの生物が凶暴で普通のやつらじゃ2日ともたんからな」
「は?」
ちょっと、カイトさん何そのカミングアウト。今更すぎない????
っていうか、そういう場所にオレなんか呼んでよかったんですか?
思わず声も出なくなって、さてなんて答えよう。もしくは、どうやって家に帰ると切り出そう。
なんて思っていると。
ふと。
第六感というか、嫌な感じがして、ふとその場から飛びのいた。
ズドッ
鈍い音がして、さっきまで立っていた場所が、何かを起点として地が抉れて陥没している。
「何がっ!」
おこったんだ?
という間もなく、人影が飛び出してくる。
オレに向かって。殺気をほとばしりながらっ!
条件反射で纏を堅状態にし、人影のコブシを受け止める。
重いっ!
「ぐっ」
支えきれずに後方に吹き飛ぶ。
体制を崩し土ぼこりを上げながら転がるが、手と足を使って何とか状態を立て直す。
前を見るとその人影はニヤリと笑みを浮かべ、更に追撃を開始する。
一体何が起きたのか分からないまま、その追撃を避ける。
コブシが右、左と繰り出されるのにたいし、後ろに下がりながら左、右と避けていく。
だけど早さも、重さもまけていて、受け流した手が赤くはれていく。
ナイフ等は必要ないだろうと油断していて、バッグの中にサバイバルナイフが1本あるだけで、今手持ちのものはない。
自然対応が素手になる。
相手も素手でのコブシのやりとりだから、お互い様ではあるが。
1回、2回、3回とギリギリながらによけるが、反撃のチャンスは見当たらない。
よけるのだけで手に余る。
トンっ
実際は数秒だろうに、体感として長く感じた回避の時間は、軽い音がして終了した。
背中に何かがぶつかり、退路をふさぐ。
後ろを見ると大きな木が。
くっ
もう下がれない。
背を木に預け、襲撃者と向かい合う。
向かう相手は知らない顔。
引きこもり生活が功をなして、今まで襲撃された事はない。だけど、オレはゾルディックだから、懸賞金はかかっている。
いつ襲われてもおかしくない身の上だ。
まさか。こんなところで?
そうおもわなくもないが、他に思い当たる節はなかった。
「誰だ?」
声を低め、相手に問う。
時間稼ぎのつもりではなく、どうせなら理由ぐらい知りたいとおもったのだ。
聞いてみたものの、答えが返ってくるとはおもっていなかったが。
だが。
「おもった以上だ! よく来たな!」
と、殺気をすっかりなくした襲撃者に満面の笑みで言われ、腕をひかれ前かがみになったところで背中をバンッと叩かれた。
「は? え?」
背中に来た衝撃で前によろけながら、オレは混乱していた。
その衝撃はまったく攻撃性がなく、敵意のないもので。
さらに、その後も「テストは合格だ」と、揚々と語る襲撃者の姿。
視界の端にカイトの姿を捉え、思わずすがるような視線を送ると、彼は申し訳なさそうに
「紹介が遅くなってすまない。この人がオレの師匠でジン=フリークスという」
と、襲撃者を指し示し紹介した。
「はあああああ? っていうか、ジン=フリークス!!!!???」
28
オレって馬鹿かもしれない。
漫画表記ならば縦線をたくさん背後に抱えた状態で、手元をちまちまと動かしながら作業を進める。
「機械類はさっぱりわからねーからな。ずっと放置していたんだ。しっかし、こんなネジの塊が理解できるのか。すげーな」
「そうおもうなら、修理に出してください」
「なくても生活できるだろ? できねーっていう根性無しはいねーし」
「言わないだけで、きっと他の人は苦労していますよ!」
カチャカチャと音を立てて回るネジ。
念を使って一瞬で直したい……。
溜息をひとつ。
だめだ。発は簡単にばらしてはいけない。こんなところで披露していいものじゃないんだ。
心の葛藤をしながらも、手元の機械。
発電機を修理していく。
何が役立つかわかったものじゃないな。
暇になったら、例の試作品を作ろうと持ってきたいくつかの工具と部品。
それがまさに今大活躍をしている。
掘っ立て小屋の中の電気がつかないと訴えたら、発電機が壊れているとか。電気もない生活に野生児以外が耐えられるわけがない。
絶対凶暴な(以下略)のせいだけじゃない。
もう少し環境に気を使うべきだ。
発電機だけじゃない。いろいろと文明の品は壊れまくっていた。
オレ考古学の研究生としてきたはずなんだけどな。
そうはおもうけど、下手すると一週間まるまる環境改善のために機械を触って終わりそうな現実にくらくらする。
そもそもの始まりとして。
何で気がつかなかったのか。過去のオレ自身に問いかけたい。
カイトなんて重要なポジションを持つ1人じゃないか。
長髪にキャスケット。そのままの格好なのに、何故気がつかなかった。過去のオレよ。
気がついていたら、意地でも来なかったし、近づかなかった。
回避できなかったとしても、ベースキャンプに期待なんかしなかった。
ジン=フリークスは野生児のイメージはしっかりあったのだから。
今となっては、イメージどころかそのまんまだとわかっているけど。
普通だとおもっていたから、必要以上に準備もしなかったし、衝撃もでかかった。
カイトもカイトだ。
直前になってカミングアウトっていうのは、詐欺っていわないか?
本日何度目か、数え切れない数をこなした溜息を更にもう一回追加する。
熱烈な歓迎を受けた、あの後。
オレ達は自己紹介をし、荷物を小屋の中に入れた。
自己紹介といっても、オレとジンさんの二人の交換で終わりだ。
本来はもう1人スタッフがいるらしいのだが、今は帰省しているらしい。その人のベッドをオレが借り受ける事になる。
そんな少ない人数でやっていたのか?
とびっくりするところであるが、事実そうらしい。
ジンさんが浮世は疲れたと、密林の中で気ままな生活をしていたら見つけてしまった遺跡らしく、大事にしてまた浮世のわずらわしさに関わるのも嫌だと、知人を集めてほそぼそと発掘作業をやっているそうだ。
大きな遺跡ではないので、それでも何とかなるらしい。
そんな状態なのが原因なのか、もう野生そのままの生活。もう1人のスタッフも、その生活に適応している人間だから、電気ナニソレ状態。
一応初期に発電機といくばくかの電気機器は用意したものの、壊れた後は修理する事もなく放置になったらしい。
そんな状態でよくオレに対して、遊びに来いとか言えたものだ。
と憤慨してしまうところである。
もしオレのこの技術を見通してだったら、感心するよ!
学園ではそういうそぶり見せなかったから、そんなわけないとおもうけどさ。
その系統の台詞をいったら
「ジンさんの場合、見たいとおもったらその気持ちが専行して、他は後回しだからな」
とのこと。
思わず納得してしまった自分が憎い。
とりあえず自分の生活環境は自分で改善するしかない!
と決意をし、発電機を修理し、風呂を沸かして入り
「お。久しぶりの湯だ! 懐かしいな」
と言う台詞にあきれ、(普段は湖で水浴びして終了らしい)
兔を塩で焼いただけの晩御飯を食べ
「オレ、サバイバルの修行に来たのかな?」
と呟きながら、睡眠に至った。
アイジエン大陸来国1日目の出来事であった。
29
朝、東日の強烈さに無理やり覚醒を促され、熱を含んだ湿気に、都会の喧騒から離れた場所に来たんだと、来てしまったんだと理解する。
横を見てみれば誰もいなく、小屋の中にも誰もいない。
その代わり外から物音がするので、さすが野生児は朝が早い。と失礼な事をおもったりする。
流石に口に出す事はないけど、昨日1日で心情的では遠慮する事をやめた。来て早々攻撃を仕掛けられる、現地についてからのカミングアウト、現代機具を投げ出した環境など、それらの事が合わさって「この人たちを立てる必要性はない」と悟った。
遠慮していたら人並みの生活さえできない。間違いない。
外に出ると、ジンとカイトの2人が組み手をしていた。
ジンの方は余裕があり笑みを浮かべている状態だが、カイトは必死だ。何度もヒットをうけ、地面に叩きつけられている。
うわぁ。痛そう。
なかなかにハードな組み手だ。しかもレベルが高い。イルミやクロロなら混じれるだろうが、オレは到底中に入れるレベルじゃない。
オレは関係ないと、顔でも洗おうとおもっていたのだが。
「目が覚めたか」
と、見つかってしまった。
ジンはこちらを振り返りニカリと笑む。
「おはようございます」
「おはよーさん。よく眠れたか?」
カイトもホコリを落としながら立ち上がる。
「それなりには」
「嘘つく必要はないぜ。お前寝ながらも神経逆立てていたじゃないか」
ジンの指摘に、カイトはくつくつと笑い、こそりとつぶやく。
「やはり野生動物みたいだ」
と。
聞こえているんだけど。カイトさん……。オレを動物と同レベルで扱わないで欲しいとのですが。
それに、警戒するのは当たり前だと思うのだ。
原作の人間という知識はあれど、オレ達は初対面で相手がどういう人間かも分からないのに、無防備に熟睡できるわけがない。
たとえ疲れていようが、何かが起きた時にすぐに対応できるように、神経の一部を起こしておかなければ安心できない。
「とりあえず、だ。お前もまざれ」
「は?」
どうとりあえずなのかわけが分からない!
いきなりコブシが繰り出され、一歩後退しながらよろめく。
「ちょ、まってください」
「きこえんな」
遠慮されているとはいえ、風圧さえも重いこの攻撃を受けたら、無傷ではいられない悪寒を感じ、即座に堅を展開する。
「いい反応だ。オレ対2人のコンビ戦だ。好きにかかって来い」
「オレはやるとは言っていません。勝手に決めないで下さいっ」
「諦めろ。ジンさんはやるといったら、やる人間だ。いくぞっ」
そして無理やり組み手に参加させられた、二日目の早朝。
「オレ組み手とか得意じゃないんですけどおおおおおおおお」
オレ本当に何しに来たんだろう。
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密林生活の一部を簡単に記そうと思う。
二日目
朝から訓練というか組み手に付き合わされる。ちなみにこの日以後も続くから、後で単なる日課なのか。とわかるのだが。
正直オレの手にあまるハードさで、終わった時にはボロボロで少しの間動けなかった。
野生児達は流石に元気で、どこからか調達してきた食材で、サバイバル料理を作ってくれる。
有難く頂いてから、2人が遺跡だかどこかに消えた後、少し寝る。しんどい……。
起きた後、“小屋に明かりを灯しましょう”と照明関係に手を出す。
配線のがすんだ後気がつく。電球のコイルが切れている。
自分の中の何かの緒がぶちっと切れた気がし、能力で強制的に電球の修復を行い、小屋の中が明るくなる。少し気分も上昇した。
三日目
今日も朝から強制的に組み手に参加させられる。だぁぁぁかぁぁぁぁらぁぁっぁ、オレは組み手は苦手なんだ!!!!
今日は投擲用のナイフの代わりになるものを作ろうと心に決める。
砕けたガラスはある。なんとかなるっ!
10本つくり、ハッとなる。
コレを作るだけに残ったと思われるのもシャクだったので、他の電化製品に手を加える。大体カメラや、レコーダーを壊して放置してる地点でお前ら何やってんの?と突っ込まれてもおかしくない。
四日目
早朝やはり組み手に参加させられる。
ふ、ふふふふふ。今日のオレは一味違う!
しゃきーんと作ったナイフを取り出すと、カイトはぎょっとし、ジンは馬鹿笑いを始める。
「まてっ、オレにあたるっ!!」
「安心してください。そんなミスはしません」
「わははははは。お前面白いな」
結果もちろんカイトには当てなかったが、ジンにも当たらなかった。
「いい加減、敬語をよせ。堅苦しいのはキライなんだ」
「ジンさん達はクライアントです」
「じゃあ、今後はカイトが依頼主だ」
「カイトさんにも敬語つかっています。何も変わりません」
嫌がる限り敬語は、意地で使い続けようと思う。
五日目
あらかたの電化製品が直った地点で、はっとなる。
「オレ一体何のために来たんだろう」
状況に流されすぎた。
気がつけば5日もたっていた事に愕然とする。
「カイトさん。オレって確か、考古学の研究生として来た気がするんですけど……」
「そういえばそうだったな。毎日電化製品が何か修復されていくから、ついオレも忘れてた」
「じゃあ、今日は遺跡に一緒に行くか」
というコトで、5日目にして遺跡へと足を運んだ。
でも明日には帰るんだよな。マジで何しに来たのやら。
うっそうとした樹海に囲まれた中にそれはあった。
石で積み重なって作られた、一つのオブジェ。
人の住んでいる気配はもはやない。だがそれがいっそう、神秘的さをかもし出しているかの用に見えた。
石柱の配置は均等にならべられ、建物は面影をしっかりと残したまま、月日にさらされ、ところどころに崩壊の痕を見せている。
「ラクルに翻訳してもらった石版はこっちだ」
と連れて行ってもらった先に、確かに自分が謎といた文字の羅列を見つけ。悔しいかな、少し感動してしまったのだった。
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最後の夜というコトで、豪華な夕食だった。
毎度のごとく調理は原始的な焚き火をつかったもので、運ぶのも面倒ということで、野外での食事となっている。
今日だけじゃなくていつもだけど。
火を囲み、地べたに座りながら、食事に手を伸ばす。
メインとなる肉は、豪快な肉塊のまま串焼きにされている。焼けたら自分でとって食え。そんな状態。
今日はそれだけではなく、いつもより手はこってサイドメニューもあり、なにより酒も山済みにされていた。
食事はともかく、飲酒は一応断ったのだが、「いいから飲め!」と、グラスになみなみと注がれ、反論しても何も変わらないと諦めてちびちびと口にする。
ここにきて5日。大分オレも諦めがよくなったものだ。
「お前、また来い」
「嫌です」
ようやく明日帰れるのだ。またこの野生生活に戻りたくないと、即答で答えたのだが、ジンは楽しそうに笑っている。
「オレからも頼む。オレはあまり長くここに居られなくてな。そろそろカキン国での仕事に復帰しないといけないんだ。他の仲間が向こうでまっている」
「嫌ですよ。カイトさん。その台詞オレに人間を止めろっていうのと同義ですよ」
この環境に耐えれる人間が少なくて、人手が足りないというのは至極当然だと思うし、納得するところなんだけど。
同情して手伝う気には到底なれない。
オレは原始的な野生の生活よりも、ちょっと薄汚れた空気の中で、人ごみと喧騒の中にうずもれていたほうがいいのだ。――ひきこもりだけど。
「ま、仕方ねえ。今は勉強中で一応学校もあるしな。だが落ち着いたら一度手伝いに来い」
「何でそこまで誘うんですか」
「そりゃ簡単だ。オレがおめーのこと気に入ったからだな」
「へっ」
言われた台詞にびっくりする。
気に入った?
どこが?
思わず聞いた台詞を疑ってしまう。
ジンに対して気に入られる行動をした覚えがない。むしろ、この人に遠慮していたらダメだとばかりに、言い返してばかりいた気がする。
「言っている意味がわかりません」
本当に分からない。
冗談としか思えない。
それにこの人だって今はそう思っているかもしれないけど、オレが嘘をついていると分かったら前言撤回し、オレの生き方を否定するだろう。
トリプルハンターになれるぐらいの、太陽な人だから。
きっと理解する事はできないし、説得される。
今は内包できても、それを知ったら放り出される。
それが分かっているから、決して打ち解けてはいけない。
オレは壁を作り直す。
この人たちは、オレとは生き方が違う人たちなのだ。
「ははははは。カイトの言うとおり、まるで野生動物だ」
「ジンさん、本人の前で言わないでくれ」
いや、カイトさん。貴方も前言っていたの聞こえていたからっ!
「信じられないかもしれんが、オレもラクルのことは気に入っているぜ。この一週間楽しかった。良かったら今度こそ、連絡先を教えてくれないか?」
「すいません。カイトさん。答えは前と一緒です。連絡するときは教授経由でお願いします」
「そうか。残念だ」
少し悲しそうにカイトはする。
すいません。教授経由といっても長くは通じるものじゃない。来年まで居座る事はないから、長くてもそれまで。
オレは教授に本当の連絡先を教えるつもりはない。あの研究室のみんなもしかりだ。
だから学園を離れたら、オレ達に接点はない。
オレがカイトのホームコードを知っていても、おそらく電話をかけることはないから。
「大丈夫だ。カイト」
ぐびっと麦酒をあおり、ジンがニヤリといやな笑いをする。
その笑いに第六感が、警報を鳴らす。
「オレがこいつと連絡が取れる番号を知っている」
「嘘です」
オレはジンに連絡先を教えていない。教授にもだ。知っているわけがない。
戸籍の番号でさえ、嘘に塗り固められている。
「嘘じゃねー、その番号は………だろ?」
――――――っ!!!!!!!!!
述べられた番号は確かにオレの暗記している番号で、声も出ないぐらいに吃驚する。
「なっ、なんでっ!?」
「おー。ようやく敬語がはずれたな。とっておきを出したかいがあった。何、昔じいさんと少しな」
じいさん。
その言葉が指し示すとおり、述べられた番号はオレの番号じゃない。
ゼノのものだ。
だけど、ゼノ=ゾルディックにかければ、オレと連絡が通じるって!
オレがゾルディックの人間って知っている?!
「ここにかければ、こいつにつながるぜ。ま、ちょっとめんどくせえ爺さんが途中に入るけどな」
含んだ顔でカイトに継げるジン。
「ま、まってください。教えます!教えればいいんでしょう!」
毎回ゼノ経由で、連絡もらうぐらいなら、自分の番号を教えたほうがマシすぎる!!!
大体何もしらないで、本当にカイトがゼノに電話したらどうするつもりなんだ。しょっぱなから「誰をやってほしいんじゃ?」と聞かれてもびっくりするのがオチだ。
番号をつげ脱力する。
ふと考えてみれば、ジンはオレのこと一度もラクルと呼んだことがなかった。
この名前が偽名だと知っていた。そう思っても不思議はなかった。
「ジンさん、いつから知っていたんですか?」
「最初っからさ」
「どういうことだ?」
カイトは不思議そうな顔をするところを見ると、知っていたのはジンだけらしい。
もう腹黒いやつは胃もたれしそうなぐらい周りにあふれているから、カイトだけは白いままでいいとおもう。
カイトの「オレにも話せ」という訴えに、ジンさんを見てみれば
「手前の事は手前でしろ」と無責任な台詞。
無理やり暴いたのはあんたでしょーに。
こめかみを押さえ、頭痛がしてきそうな気持ちを押さえ込み、息をひとつ吐く。
自分からの曝露はやっぱり切り出しにくい。
嘘を吐いていたと、オレが実際は違う人種だと告げるのだ。自然と口舌が堅くなる
自分自身はゾルディックであることを誇りにしているはずなのに、なんとなく気後れしてしまうのは何でだろうか。
「すいませんでした。カイトさん。簡単に言うとラクルというのは偽名で、本名はミルキ=ゾルディックと言います」
32
カイトの反応は淡白だった。
それでいいのか?
っていうか、ゾルディックって実は有名じゃなかったのか?
と疑ってしまうほどに。
「そうか。あらためてよろしくな。ミルキ」
と。普通に返された。
逆にこっちがびっくりしてしまう。
「え、えっと。それだけですか?」
「他に何かあるのか?」
「何もありませんけど……」
やばい。こんな展開は予想していなかった。
逆にこっちが反応に困ってうろたえてしまう。
「くくくくく。やっぱガキはガキだな」
ジンがいきなり笑いだす。
「カイト、こいつはな。嘘がばれて、オレたちの態度が変わるのが怖かったんだろ。だから逆に何も変わらないお前の様子をみて、うろたえているんだ」
「馬鹿だな。それくらいの嘘で怒るほど、オレは気が短くないつもりだぞ?」
「世間一般では、ゾルディックってだけでびびる奴が多いから、仕方ねーんじゃないか」
ゆらゆらと揺れるキャンプファイヤーの向こうで、一組の師弟が何もかわらずに笑っている。
オレが何者でも関係ないと。
ラクルでも、ミルキでも、ゾルディックでもなんでもいいと。
ただ、お前自身が気に入ったからと、そういっている。
びっくりした。
「2人はオレがゾルディックでも、……犯罪者でもいいんですか?」
「何をしていようが、どんな産まれだろうが、ミルキはミルキだろう? ゾルディックだからといって否定はしないさ。それにオレはゾルディックの暗殺は必要悪だとおもうぜ」
「オレはお前自身を見て気に入った。それだけだ」
カイトも、ジンも。
オレを否定しないんだ。
そう思ったらなんかすごく悔しくて
少しうつむいてしまった。
鼻の奥がツーンとするような、目頭が熱くなるような、そんな気恥ずかしい思いが支配する。
オレ自身をみて、認められて。
更にオレが選んだ生き方も否定されなくて、丸ごと受け止めてもらえる。
それがものすごく嬉しくて。
素直にぶつけられる好意を信じていいんだ。っていうのが本当に嬉しくて。
「オレは2人がキライです。でも時々なら古文の解読や機器類の修理をしに、遊びに来てもいいかもしれません」
ちょっとひねくれた答えをしたら、
師弟の2人組みは腹をかかえて、爆笑していた。
33
酔っ払ってぐでんと寝ているまだ年若い、といっても20弱というところか。
毎日寝るときでさえ、神経をとがらせていたというのに、酒の勢いもあってか、普通に寝入っている。
そのせいもあって、顔に幼さを感じ、余計にガキに見えた。
カイトに持っているジョッキをあずけ、ミルキを小脇にかかえ寝床へと運ぶ。
ぼすんと寝床に放り込むが、「うー」と寝言をひとついっただけで、起きやしねえ。
おや。コレは酒の勢いだけじゃないか。
流石に酒の勢いだけならば、この振動でおきてもおかしくない。
まさか。
思い当たる節を見つけ、ふくくくと笑いがこみ上げてくる。
まさに野生動物だ。
先ほどの夕飯のときに交わした会話。
なんてことはねえ、普通にオレの心情をそのまま口に出しただけなのだが、こいつにとっては敵と認識していた存在が、身内に代わった瞬間だったのだろう。
だから寝るときの緊張を解いた。
そんなところだろう。
「野生動物に好かれるのは、悪い気はしねえな」
にやにやしてしまう口元は押さえきれない。
やっぱりコイツは面白い。
そう思わせるだけの存在。
ゾルディックの人間とは何回か会った事がある。
強い一族だと思うし、独特だと思うがそれ以上の感想は持っていない。
人殺しだというが、ハンターをやっていると時には人を殺すことがある。そこまで大きな差ではない。ただちょっと強い人間が多い一族。それだけだ。
だから、オレもカイトもこいつがゾルディックだろうと何でもいい。何もかわらねえ。
だが、他の人間にはそうもいかないだろう。
弱い人間は強い人間を怖がる。その人間の本質さえ曇って見えなくなるほどに。
だからこいつが名前を名乗った時、うろたえたのは何も間違ってはいない。ゾルディックの名は俗世で過ごすには重い名だ。
それでも彼はその名を捨てないだろう。ゾルディックの人間は、その立場ゆえに信頼できるのは家族だけだとわかっているから絆が深い。
まあ、こいつはちょっと毛色が違うようだけどな。
気性は荒くなく、機械をいじったり、生活を改善させようとしたり、人を自然と思いやる事をしっている。ゾルディックとして生きるには、闇をぬって過ごすには時には障害があるかもしれないと思うほどに。
その青年をみて思わず、らしくもなく、自らがもう通り過ぎた過去を思い出ししんみりとする。
「若いっていいねえ」
「ジンさん、そんな事言っていると、余計に老けてみえるぜ」
「うっせえ。オレはもうおっさんだからいいんだよ」
背後に弟子であるカイトが立っていた。
遅くなったオレの様子を見にきたのかもしれない。
思わず感傷にひたってしまい、時間が思いのほか長く経ってしまった。
カイトはオレの横まできて、寝ている子を覗き込む。
「よく寝ているな」
「ようやく気を許したんだろ」
カイトは一瞬間を置くと、何かに思い立ったのか笑い出した。
「動物に好かれた瞬間は嬉しいな」
その意見には賛成だな。
「それにしても、ジンさん。いつ彼がゾルディックだと知ったんだ?」
「あー、まあ。来たときにっていうか、呼ぶときにはすでに知ってたな。
ウィリーのやつとはなんだかんだと、世話になってるしよ。能力者が近くにいるってことで、裏をとってみたわけだ。あいつは学者肌でまったく強くねえから、危険さえなきゃいい。それくらいの感じだったんだが。
調べてみたら戸籍は嘘だわ、更にはゾルディックの次男坊だわで、吃驚してな。とりあえずオレ自身の目で確かめてやろうと呼び出したわけだ」
オレ自信が調べたわけじゃない。んな器用なマネできねーしな。
もちろん専門の奴に依頼して調べてもらったんだが、あんときゃ吃驚したな。
腕のいい奴だが苦労していて、疑問には感じたが、まさかまさかの結果。
おかげで調査費用としてXX億ジェニーもかかっちまった。
「それじゃ、クラーク教授も彼の身の上を知った上で?」
「いんや。まだしらね。むしろあいつには教える気はねえ」
「なんでだ?」
「あいつはなー、人の本質を感じとれるいい奴なんだが、家族を殺されてから殺人者に対してだけはフィルターがかかっちまう。ゾルディックときいたら、追い出すだけじゃなく罵声の1つや2つ飛びそうだ」
それまでは差別をせずに誰にでも接するやつだった。
だがオレが遺跡の調査で呼び出している間に事件は起こった。強盗に家族を殺されたのだ。
大分昔のことだが、ウィリーの傷は治っていないだろう。
甥っ子がだいぶ心の励みになっているようだが、あの時の悲しみを見るからにおそらく癒える事はない。
「そうか」
カイトも世情は分かっている。余計な事を言うことはない。
オレは飲みなおそうと、くるりと背をむけ歩き出したところでふと一冊のノートに目が行く。
ぱらぱらとめくってみると、神字のことについてまとめてある。
「ジンさん人のものを勝手に見るのは趣味がよくな……」
「見られるとこに置いておくほうが悪いんだ。っていうか、こいつすげーわ。確かウィリーんとこに来たのは5月ぐらいだろ?」
「そうだったはずだが」
ならまだ3ヶ月ちょっとというところだ。
それでこの理解。
オレは思わず感心した。
正直オレは筋肉バカだ。調査とか、解読とか小難しい事に頭を使うことはできねえ。
小難しい事はすべて人に任せる。
人には適正っていうモノがある。それでいいと思っている。
その中に神字もある。
強化するとか単純なものなら、オレにでも出来る。だが、わりと奥が深く、罠の設置や、10年後に作動させるとか時間をかけるものになると、複雑な文様になってくる。
そこまで行くとオレにはまったく理解できない。
それでも年の功ってやつで、見れば多少の意味ぐらいは分かるようになったが。
「この神字。写しじゃなく、コイツの目的にそって組まれている」
開いてみせるノートのページ。
そこにはびっちりと模様が描かれている。
「細かいな」
「内容はおそらく、正解をのぞく行動をした時に、こめた念を発動させるというもので、有効時間は5年。いやもう少しあるか? 過去にオレが依頼した模様とそっくりだから分かるがそうじゃなかったら、解読に苦労しそうなもんだな」
一見神字が描かれているか分からないように、隠の役割もつくようにしてあるとか。3ヶ月程度しか神字を勉強した人間の作品とは思えない。
過去オレは息子への伝言のために、ひとつのテープを作った。
その時に作成してもらった神字の模様とよく似ている。ウィリーに作ってもらったんだが、苦労したと文句を言われたものだ。
あの時すでにウィリーは神字を勉強して、何十年たっていたのか。
「やはりトラの子はトラというところか」
戦闘に特化していなくても、違うジャンルで特化している。
ゾルディックは優秀な血筋を脈々と未だに排出しているわけだ。
「こいつの連絡先。思った以上に貴重かもな」
いずれ何かをお願いする事もでてきそうだ。
とりあえず今は飴をあたえて、もう少し手なずけないとな。
過去にウィリーに書いてもらった神字の模様というプログラム。
きっと倉庫扱いをしている仮宿にうまっている。
見つけたら送ってやろう。
ノートを元にあった場所に戻し、再び弟子と供に飲みなおしに戻った。
34
来た時と同じように、カイトの運転でジープは空港に向けて走る。
ジンさんは遺跡にて別れた。
彼はある意味有名人であるし、あまりその場所を特定されたくない。とのことで、空港には近寄りたくないそうだ。
確かに空港までいけば、職員もいるし、文明の目にとまる。
居場所が割れる切欠になりえるだろう。
それもあり、誰彼と遺跡の発掘員を増やせないのもあるのだろう。
「いろいろとありましたが、お世話になりました」
空港のプレハブの中で、カイトにお礼を言う。
一週間だったけれど、まあ正直何をしに来たのか分からない結果だったけど。
楽しかった、と思う。
振り回されている最中は、迷惑なおっさんだと思っていた。だけど、終わってみればいい思い出だ。
カイトはイルミとは違った意味で、いい兄貴と言える。
それに、自分をつくろわず、隠し事もなく、自分のありのまま。殻を脱ぎ捨てて接することの出来る存在。
それで居て嫌わないで、好意を示してくれる人間は、言いつくろったところで嬉しいのだ。
「ジンさんのところはああだが、オレのいるカキン国はまともだからな。長期連休にでも遊びに来いよな」
「そうですね。家の手伝いもなく、勉強する事もなく暇だったら遊びに行きます」
「ミルキも暗殺業をやっているのか?」
「いえ、オレは……。暗殺は……。そういう系統の依頼は兄にしてもらえると。」
苦笑して少しごまかす。
手伝いはしても、実はまだ手を染めた事はない。踏ん切りがついていない状態だ。
このままじゃいけない。そうは分かっている。
オレはゾルディックを選んだのだ。
「ちがっ。頼む気なんかねーから大丈夫だ! まあ、なんていうか、聞いただけだ」
「でも手は貸しています。暗殺を悪い事とも思っていません。ただ、実行犯として前に出るには弱いので……。今オレの得意として、担当としているところは情報収集や後方支援です」
「それで神字を?」
「そんなところですね。神字や情報収集で力を貸して欲しいときは連絡してください。3割引で請け負いますよ」
「腕がよかったらな」
「期待してください」
背後から大きな影がせまってくる。
影と同時に聞こえる低い機械音。
比較的小ぶりな飛行船が、背後の空き地へと鈍い音をたてて着陸する。
プレハブにはオレ達以外誰もいない。
降りたとき同様に、オレだけが乗り込むことになるのだろう。
「お客さん、船がきたよ」
愛想のたりない業務員が、遠く空き地から声を張り上げる。
オレが乗れば飛び立てるのだから、早くしたほうがいいだろう。
「元気でな」
「カイトさんも」
そしてオレは原始的な熱帯地区をあとにして、文明の中へと足を踏み入れる。
高くなっていく飛行船は眼下に緑色の密林を映し出し、あの広大な自然の中では小さな人間を見つけ出すのは不可能だ。
ジンの姿も、カイトの姿も密林がすっぽりと隠している。
「仕方なく来たけど、来てよかったな」
窓に額をつけ。
頬に冷たさを感じながら。
同じ立場の人じゃなくても、オレの生き方を理解してくれる人はいるのだと。
そう教えてくれた彼らに、心の中でそっとお礼を告げた。