その後、オレの療養は1ヶ月間ベッドの上に縛り付けられた状態だった。
オレの念の系統は具現化系で、強化系とは相性が悪かったので絶をしていてもコレだけの時間がかかってしまったのだ。
少し怖かったのは、この一件で念の系統が変わってしまったのではないか。というものであったのだが、懸念ですんだ。
前から具現化系であったし、今水見式をやっても具現化系だった。
イルミもカルトも操作系だったから、てっきり操作系かと思っていたが、多少の遺伝こそあるものの別の系統が産まれることも珍しくないらしい。
念と性格は密接だと考えるならば、ソレも不思議ではないなと思う。
家族は似る。だが、似ない家族だって居る。
イルミとカルトは似たところがあったが、ミルキの性格は操作系ではない。具現化と聞いて納得できてしまう。
具現化は神経質で批判家、オタクが多いのもこの系統だという。
まさにそのとおりすぎる。
回復力が少ない具現化ではあるが、オレは必死に絶をした。
少しでも回復速度が上がるようにと。
満身創痍なボロボロ状態から、1ヶ月でここまで回復できたのだから念ってすごいと思う。
そんなこんなで順調に回復していた。
寝込んでいるとき、家族の存在はありがたいものだ。
うちの場合メイドと執事が世話をしてくれるのだけど、家族の皆も見舞いして何回か顔をだしていた。
シルバは言葉通りあの後も何回か訪れてくれた。
だが当主は忙しいのか数もそれほど多くなく、短い事が多い。
シルバは寡黙タイプで、来てもあまり会話が弾む事はない。息苦しいというわけでもない。静かに様子を見に来るかんじだ。
「息災か? 不便な事はないか?」
と最初に聞いてくる。
「良くしてもらってるよ」と答えると「そうか」と答える。
おおむね、そのやりとりから始まる。
彼は部屋にあるソファーにすわるり、オレと一言二言会話をかわして少し立つと満足して部屋を出て行く。
基本オレが何かを頼むことはなかったのだが、2回頼みごとをした。
最初にお願いしたのは物欲だった。
オレはノートパソコンが欲しかった。
今オレが所持しているのはデスクトップパソコンばかりだ。持ち運びはできないもののスペック的にそちらの方が利便性がよいから、そちらを選ぶ気持ちは理解できる。異論もない。
だけど今だけは別だ。それではベッドの上に縛り付けられた状態では操作ができない。
今デスクトップのパソコンを何台持っていても意味がない。
しかし、ノートパソコンなら! ベッドサイドテーブルを使用したら普通に扱える。電脳ページを通じて情報を得ることができる!
そうは思ったが、ノートパソコンは安いものではない。
簡単に買ってとお願いしていいものではない。何度もお願いしようとし、やめるという事を繰り返したが、シルバの「何でも言え」という甘言に負けて、頼むに至った。
怪我治療がどれくらいかかるか分からない状態だった為、贅沢だとは思いつつも誘惑に勝てなかったのだ。
シルバは快く承諾してくれて、次の日にはゴトーが新型のノートを持ってきてくれた。
オレは高揚する気持ちを抑えきれず、パソコンを胸に抱きながら「ありがとうありがとう」と何度も言って、運んだだけのゴトーを困らせてしまった。
それほどに嬉しかった。
何もやることのなかった生活から、情報収集をする生活にきりかわり、いくつかの知識を得た。
家族で一番来るのはイルミである。
彼も寡黙なタイプではあるが、世話焼きという点がシルバと違う。
「ミルキお見舞い品」
最初の一言はこれ。
毎回手土産を持ってくる。
最初は人形……というよりフィギア。
確かに部屋にはたくさんのフィギアがあって、趣味だったことは間違いない。だけどもだ、オレはあまりというかまったく興味がない。
機会があったら全部処分してもいいと思ってるぐらい。
なので次回からはフィギアはやめてほしい。とお願いしたら、次はお菓子やケーキなど甘いものだった。
これ以上太っては困るとコレもお断りした。
「何がいいの?」と趣味が変わった事は特に追求せずにきいてきた。何もいらない。来てくれるだけでいい。といった要求は通らなかったので、オレは本と答えた。
彼いわく、見舞いに品は必須らしい。悪友からの助言らしく、ヒソカの存在を臭わせた。
イルミが大切な存在の見舞いとか言って、ヒソカが女の見舞いと勘違いして助言したんじゃないか?
なんて無粋な予測をしてしまったが、真相は知らない。
アルカにあったのは1度きりだ。
自己紹介と見舞いの言葉をもらっただけで、特に何もなかった。
カルトに似た顔だちの少年だ。親族の家で世話になっているらしく、実家にはいないそうだ。
オレへの顔見せにわざわざ来てくれたらしく、申し訳ない気持ちになった。
カルトはほとんど来ない。
まだ小さく来ない理由は「人形が怖い」とのこと。
この部屋にはたくさんのフィギアがおいてあり、来るのが怖いそうだ。
もうこの頃から、おかっぱの和装でとてもかわいらしい。
「ミル兄、早く元気になってね」
と扉の影から言ってくれたときは、ロリ趣味じゃないが思わず抱きしめたいと思ってしまったほどだ。
あれは破壊的な威力の可愛さだったのだ。
彼は本当に時々にしか来なかったが、子供ならではのおしゃべりをしていく事が多かった。
ミケの話しや、山で遊んだ話がメイン。
拷問の修行も始まったらしく、ビリビリした。と電流をうけた感想を言っていた。
子供のつたない話し方だが、内容は可愛くなかった。
ゾルディック家おそるべしである。
ゼノ爺さんはまあまあよく来る。
隠居で暇だということらしいが、一日一殺の慣用句は守られているのだろうか?まあ大量に殺す仕事も時々入っているみたいだから、平均するとそれくらいなのかな?
彼の場合最初の一言は決まっていない。
年寄りならではのおしゃべりを発揮する時もあれば、オレの話を聞いてくれるときもある。
決まってることといえば、毎回日本茶を持参する事か。
ゼノが来ないかぎり日本茶を飲む事がないから、一緒にご相伴にあずかっている。好きな味とはいわないが、懐かしさは感じて温まる。
「趣味がだいぶかわったようじゃの」
などとズケズケといってくるが、嫌味を感じないのは年寄りならではの処世術かもしれない。
「ダメかな?」
「いいや。かまわんぞい。おぬしはまだまだ若い。好きな方へ才能を伸ばせばよいのじゃ。
むしろ人形にかまっているより、今の方がマシになったんじゃないのか」
不安を越して言えば、そうやって笑われる。
優しい爺さんだが甘やかすだけでもなく、時には叱咤してくれる。
その叱咤が、オレに居場所を与えているんだと聞こえるのだから、とことん重症な家族病だ。
「ミルの情報収集力はなかなかに期待が持てるものじゃった。今もパソコンをよく見ていると聞くから、今後も期待しているぞ」
言われなくてもオレはサポーターの位置づけを変えるつもりはなかった。
「任せておいて」
自信はなかったけど、そう答えるとゼノは厳しい顔つきを緩ませ「任せたぞ」と言った。
よく来るがよく迷惑をかける。
それがキキョウだ……。
「まぁああああああああああ。ミルキちゃん」
とキンキン声で部屋に入ってくる。
ミルキちゃんが好きだからと、大量のケーキとかお菓子も持ってくる。
何度もイラナイと言っているのだが、でも好きでしょう。と譲らない。食べるまで粘る。
「遠慮しなくてもいいのよ。ミルキちゃんのことは分かっているから。オホホホホホ」
と、まったくもって取り合ってくれない。
しぶしぶながらに、手をつけるのだが……。
これが血となり肉となると思うと、美味しさより苦い気持ちが勝る。
甘いのにぴりっとした刺激は愛情なのかな。と疑問に思ったりもする。
オレがフォークでケーキを口に運ぶのを確認すると、今度は愚痴を延々と語りだす。
お付き合いであった奥様がどうの、取引先のXXさんがどうの。という話しから始まり、最近シルバが冷たいのよ。とか、イルミちゃんが話をきいてくれないとか、オレには理解できないものだらけである。
話を聞いてくれないという前に、人の話を聞いたらどうなんだと思わずには居られない。
だけど思うだけで、言うことはしない。
言ったら最後オレへの不満が愚痴となって散らばるだけだからだ。
キキョウのことは嫌いではないのだが、辟易するのは仕方ないと思うんだ。
シルバに2つ目のお願いごとで、キキョウのお見舞いの回数を減らして欲しい。と願ったのも仕方ないと許して欲しい。
現に、シルバは苦笑しながらも答えてくれたのだ。
そのお願い以後キキョウの訪問は減り、オレは静かな時間を電脳ページを見たり本を読んだりと過ごせたのである。
そんなこんなで1ヶ月はすぎていった。
順風満帆とまではいかないが、家族とは仲良く過ごせたとおもう。
<ボツネタ>
記憶喪失を調べていて気になることがあった。
『過去の記憶が戻った時、発祥から戻るまでの間の記憶は忘れる場合が多い』
ということだ。
ミルキが目を覚ました時、オレはいなくなってしまうかもしれない。
なかったことになってしまうかもしれない……。
その可能性を見出してしまったのだ。
なんてことだ。……フィギアが捨てられない!
記憶が戻ってうなだれるミルキの姿が想像できてしまい、決行には移せそうにない。
オレはがっくりと肩を落とした。