盗賊でもA級になると羽振りがいいんだな。
そんな事を思いながら、高級マンションのひとつのドアの前にたつ。
標識には知らない名前。
だけども目的の場所はここである。
「しゃーるー。遊びにきたぜー」
チャイムをならし、マイクに向かって呼びかけた。
ここは数少ないオトモダチの1人シャルナークの仮家。暇なら遊びに来いと家の場所を教えてもらったのはつい先日の事。
最近は暇なのも手伝って、せっかくだから1回は行ってみようと今日訪れてみたわけだ。
「あー、今手がふさがってんだよね。鍵は空けたから自分で入ってきてくれない?」
スピーカーからシャルの声。
カチッと開錠の音が聞こえ、ドアノブをひねってみればすんなりと扉は開いた。
扉をあけて先にリビングがあり、中を覗き込んで見るとシャルナークが机に向かって何かをしているようだ。
机の上には、細かい部品類が多々散らばっている。
「何やってんの?」
「新しい携帯作ってんの。この前壊しちゃってさ……」
「へえ。自作の携帯なんだ。すごいなー」
「もうちょいまって、もうすぐ終わるから」
その言葉通り、部品類はきっちりと隙間なく組み合わされており、完成間際を思わせた。
オレも電気機器類を作成するのは好きだ。だからこそシャルの作業は興味深く、近くにあった椅子を引き寄せシャルの作業を一歩引いたところから眺めていた。
市販品にない猫をモチーフしたカバーケース。
機器の組み合わせも市販品より精密に、より高性能に組み合わされているような気がした。
たぶんそれは勘違いではない気がする。
なにせシャルなのだ。
携帯を念能力の一部として使用するからには、こだわりぬいたものにしているだろう。
「よし、出来た」
カバーをネジでとめあげ、電源をいれ動作環境をチェックしている。
問題はなさそうで満足そうな声をあげている。
「これ、オレにも出来るかな?」
オレはシャルに声をかけていた。
見ていて非常に好奇心をそそられた。
オレも作ってみたい。そう思わずにはいられなかった。
「んー。まあラクルなら出来るんじゃない? 器用だしね。教えるのはいいけど、ただじゃ教えないよ」
「分かってるって」
数日後。
「で、出来たのがコレ?」
「かわいいだろ?」
「かわいい……と思ってるの?」
シャルに教えてもらいながら作った自前の携帯なのだが、シャルはひたすら信じられないような目つきで見てくる。
「思ってるよ」
失礼な!
と言いたくなるのだけど、その言葉は飲み込む。
本気で自分ではかわいいと思ったデザインだ。ここではない世界でも一風を評したいわゆる「キモカワ」なもの。
ネコのデザインをちょっとだけシュールにして模った手元のデザインは、なかなかいい塩梅に愛嬌のある顔になっている。自分では非常に満足の行く出来である。
うけるかどうか微妙ではあったが、ゴトーはニコニコしながら褒めてくれたし、イルミにもすごいねと言ってくれたから、わりとここでも受けるんじゃないか?と思ったのだが。
「なんていうか、ラクルってセンスなかったんだな……」
「ないんじゃない。ありすぎるんだ!」
そう反論するも、シャルナークは聞き入れる事はなかった。
キモカワ携帯いいと思うんだけどな。
ボタン押すと、ふにゃーって泣いてくれるし。わりと一般受けもすると思うんだけどな。
だが、後日になってこのときのシャルの反応は正しかったんだと分かった。
クロロに盛大に溜息をつかれ、ゼノに「頭はいいがセンスはない」といわれ、カルトに「その携帯怖い」と言われてようやく気がついた。
ゴトーがオレをけなすわけがないし、イルミのセンスはコメントがしづらいものがある。
自分もイルミ同様に、センス的なものが備わっていないとレッテルをはられ、イルミに悪いと思いながらもちょっと落ち込んだ。
この世界ではキモカワは理解されないらしい。
オレのセンスは普通だあ――!